All in All

2nd. 戦略的交渉

 スポーツ特待生の朝は早い。
 別段、寮の規則で定められているわけではないが、特待生の殆どは自由意志で朝食の前に自主練習をする。まだ薄暗い五時に起床、ストレッチをしてロードワークに出る。その後は食堂が開く七時まで寮内にあるトレーニングジムを利用したり、スタジオで筋力トレーニングをしたりと様々だ。
 一年生の特待生は全ての部活を含めると十五人いる。食堂には割り当てられた座席があり、部活動のくくりではなく、学年でテーブルが分かれているから所属する部活は違っても、何とはなしに連帯感が生まれ始めていた。
 今日も、早くから特待寮はざわつき始める。全員が一度に起床すると洗面所が大混雑する、ということを学んだ常磐津千尋たちは暗黙の了解的に三分から五分程度の時間差をつけて目覚まし時計をセットしていた。千尋と、千尋のルームメイトの堺町秀人(さかいまち・ひでと)は同学年の中では早い方から数えて四組目に洗面所を利用することになっている。四時四十八分、アラーム音が鳴り響いて、千尋の一日が始まった。
 まだ眠っていたい気持ちを必死に押しのけて、千尋と堺町はジャージに着替える。
 二分でその工程を終えて、洗面用具を手に洗面所へ。暖簾をくぐると、三分前に起床した三組目が歯を磨いている。洗面を終えた二組目と入れ替わり、千尋たちは冷水を両手に掬った。
 三組目――千尋のチームメイトであるテニス特待生の二人とは入寮以来、二十日で随分と親しくなった。

キワ、はよ」
キワって本当、朝に弱いらー。まだ寝てる顔してるじゃんね」
「うるせー。お前らだって半分寝てるじゃねーか」
キワほどじゃない」

 もごもごと歯ブラシを動かしながら淡々と事実の確認をしているのが北関東出身の千代由紀人(せんだい・ゆきと)で、洗口液で口をすすいでいるのが東海出身の徳久脩(とくさ・しゅう)だ。毎朝行われるこのやり取りにも慣れ始めている。堺町が微笑ましい光景を見る目になっているのも、だんだんと慣れてきた。
 悪口の応酬をしながらも、千代と徳久は手際よく洗顔を終える。ロードワークと基礎トレーニングで汗をかくのが前提だから髪はとかすだけだ。いつもの場所、と言い残して一足先に洗面所を出ていく。二人と入れ替わるように別の二人が来る。千尋と堺町も滞りなく洗顔を終えて、一旦部屋に戻った。
 堺町とはそこで別れ、千尋は「いつもの場所」へと向かう。
 二人が待っているのは立海大学附属中学の通用門の一つで、ここから少し下っていくと湘南の海が見える。海岸沿いに続く遊歩道を走るのが千尋たちの定番だった。少しずつ日の出の時間が早くなって、季節の移ろいを告げる。土地勘のない三人でようやく見つけた安全な道は毎日、何となく違う潮の匂いがしていた。
 千代は立海に来るまで海を見たことがなかったらしい。どことなく落ち着かない感じがする、と違和を訴えていたが毎日ロードワークをしているうちに慣れてきたのか、そわそわしないようになってきた。
 走る距離はまだそれほど長くはない。朝練の前に疲れてしまったのでは何の練習にもならないし、土地勘がない。道も知らないのにあちこち足を延ばすのは危険だ。少なくとも三年。千尋たちはこの湘南で戦い続ける。土地勘はその間に培えばいい。
 だから。

「ダイ、そろそろ帰るか」

 朝日に煌めく水面を見ている横顔に呼びかける。千代は毎朝、どんな天気でも必ずこうして海を見つめていた。水面に何を見ているのかは知らない。外洋が千代の中でどんな意味を持っているのかも、厳密にはわからない。
 それでも。
 毎日、必ず千尋は千代に声をかける。徳久は千代以上に海に思い入れがあるから、徳久に声をかけても何のきっかけにもならない。
 今日も千代が納得を両目に灯したのを確かめて、千尋が合図を送ると彼は海から視線を外し、千尋を映す。戻ってきた。不意にそんな感触が千尋の中に生まれる。

「だな」
「えー! せっかくいい感じに海風あるのにもったいないらー」

 千代の同意に徳久が吼える。
 徳久が満足するまで海岸沿いにいたのでは、朝練どころか一時限目の授業にすら間に合わないのは間違いない。毎朝繰り返される恒例行事となったやり取りを重ねる。

「じゃあシュウだけ残してこう」
「シュウ、お前だけここで筋トレしてな」

 言って千尋と千代は踵を返す。その背の向こうで、徳久がぶつぶつと文句を言うのが聞こえたが、結局は徳久の足音も千尋たちに続く。
 特待寮に戻り、朝食をとる。そして、テニス部のジャージに着替えて朝練に出た。
 テニス部では暗黙の了解的に一年生がコート整備などの準備をすることになっている。千尋たち特待生も例外ではなく、ローテーションに名前が組み込まれていた。今日は六面あるコートのネット張りが千尋たちの仕事だ。用具倉庫からネットを運んできて三人一組でポールにセットする。千尋が右側のポール、徳久が左側のポール、千代が確認を担当して、五分と少しでネット張りは完了した。
 朝練が始まるまでにはまだ時間がある。
 手持無沙汰で眺めているだけ、というのも性に合わず千尋は再び用具倉庫へ向かう。ボールの入ったかごを二つ運び出す。徳久と千代が倉庫の前に立っていて、バケツリレーの要領で手渡した。千代が一番奥のコートへとかごを運んでいくのを視界の端に捕えながら、千尋はもう一度倉庫の中へ入った。千代が戻って来ているはずもなく、徳久にかごを渡す。今度は徳久が奥から二番目のコートへと向かった。次は千尋が三番目のコートへ運ぶ番だ、と思っていると不意に名前を呼ばれる。

常磐津
「ん?」
「三番目のコートでいいんだろぃ?」

 手伝うぜ。言った声に振り向けば赤髪の同級生、丸井ブン太がそこにいた。ローテーションでは彼はコートブラシの担当だったはずだ。割り当ての仕事は終わったのか、とぼんやり尋ねるとなぜか自信たっぷりに「お前だけにいい格好させられんねぇだろぃ」と返される。ボールを運ぶ担当もいる。ただ、重たいかごを遠くまで運ぶのは面倒なのか、手前のコートから順に運んでいるようだった。丸井が言っているのは、千尋たちが敢えて遠いコートの手伝いを買って出たことについてだろう。いい格好をしたつもりはない。ただ、誰かがやらなければ終わらないし、今日は偶然に千尋たちが暇だった。それだけのことだと答えると丸井は「そうかよぃ」と曖昧に笑ってかごを運んでいく。
 丸井の背を見送り、次のコートの分を持ったところで、本来の担当が慌ててやってくる。千尋たち特待生と一般部員の間には薄っすらと溝があり、丸井のように声をかけてくるものは少ない。遠慮がある、というよりは敬遠されているのだろうなと千尋は気付いていたが、そんなことで傷付くほど繊細には出来ていない。
 一分一秒でも長く練習して、強くなってもっと上へ行く。その為に千尋は慣れ親しんだ地元を離れて立海へ来た。今更、物怖じしている場合ではないのは二十日間の寮生活が十分に実感させてくれた。
 それでも、人の気遣いに触れて当然と思わない程度には分別がある。
 丸井は意外といいやつだ、と頭の片隅にメモをする。いいやつの意味合いが都合のいいやつなのか、人がいいやつなのかは敢えて精査しなかった。どちらでもいい。焦る必要もない。丸井が真実、いいやつなのだとしたら時間の経過が答えを教えてくれるだろう。
 そんなことを思いながら最後のかごを運び出す。千代と徳久が倉庫の前で待っていて、両側から荷物を奪われた。

「ダイ、シュウ。俺にも運ばせろ」
キワはもう十分運んだだろ」
「だもんで、あとは俺たちの仕事だらー」

 言って二人は軽々とかごを運んでいく。
 千代と徳久は二人とも千尋より長身で、技術を磨けばビッグサーバーとして活躍するだろう。平均的な体格をしている千尋にその可能性はない。
 それでも。
 体格を言い訳にして尻尾を巻いて逃げ出したくはなかったから、気持ちを切り替える。千尋には千尋のテニスがあるはずだ。それを見つけ出さなければ、きっとレギュラーにはなれないだろう。わかっている。
 だから。

「待てよ、二人とも」

 明日からレギュラー選抜戦が始まる。まずはそこで勝ち残るのが千尋の目標だ。
 小学生と中学生の間にある壁に打ちのめされて絶望していた千尋はもういない。壁は超える為にある。体格も技術も先天的な才能も、何一つ言い訳にしない。泣き言を口にしてベッドの上で溜め息を零すだけの中学生活なんてごめんだ。
 千尋は勝つ為にここにいる。
 千代にも徳久にも、幸村にも負けない。
 準備の終わったコートに上級生たちが姿を見せる。部長の集合の声に機敏に反応して、全員が集まった。三年の特待生の二人が海外へ遠征する為、レギュラーを外れる旨が告げられて動揺と期待が広がる。浮足立った空気を部長と副部長のひと声が切り裂く。特待生が抜けて負けるようなレギュラーは必要ない。学年など何の意味もない。立海は実力を重んじる。誰にも等しく機会は与えられた。そこで勝つのか負けるのかは本人の力次第だ。
 期待している。その一言で締め括られて朝練が始まる。
 部長たちに煽られ、いつもよりも厳しさを増した朝練を終えると体力は殆ど残っていなくて、千尋は午前中の授業を半分以上眠った状態で過ごした。完全に居眠りをしてしまわなかったのは、文武両道を謳う立海では勉強の成績も大きな意味を持っていたからだ。小学校程度の勉強もろくに出来ない千尋だったが、入寮して以来、夕食後に授業の予習復習を義務付けられた。千代や徳久、同室の堺町、堺町のチームメイトと言った親しい顔ぶれで談話室に集まり、毎晩勉強をしている。授業中に眠ってしまえばノートも記憶も残らない。毎晩の勉強会の参加者に千尋のクラスメイトはいない。だから、千尋が予習復習をする為には千尋自身が授業を覚えていなくてはならなかった。
 必死に眠気と戦っていたのを、柳は細めた眦でちゃんと見ていたらしい。
 昼休みに「常磐津、少しいいか」と声をかけられた。

「何。さっさと飯食って寝たいんだけど」
「体力自慢のお前だが、コートの外ではそうでもないと見た」
「わかってんなら」
「そこで、一つ提案がある」
「だから、何」
「俺たちと一緒に昼食を取らないか?」

 柳の言う「俺たち」の範疇が一年生テニス部員の上澄みだということは何となくわかった。ただ、幸村、真田、栁の三人の他は誰がいるのかはわからない。わからないが、千尋の中でそれはただの慣れ合いではないかという疑問が浮かぶ。それをそのまま言葉にするのは柳たちへの侮辱にほかならず、千尋はぐっと唇を噛んで飲み込んだ。
 柳からすればそこまでが計算の内だったのだろう。

常磐津、お前と違って俺の成績は学年上位だ。授業を効率よく受けるコツも知っている」

 半分以上意識が飛んでいても、成績が上がる方法を教えてもいい。と言外にある。千尋はその誘惑に揺らいだ。
 それでも、一応は柳の勧誘を辞退する。
 柳の細い眦がいっそう穏やかに弧を描いた。

「いや、俺、お前らとつるむ気はねーんだけど」
「千代は精市が、徳久は弦一郎が既に説得している。俺たちからすれば、お前たち三人の予習復習の手助けをするのは朝飯前だが?」
「それ、お前らに何のメリットがあるわけ?」
「特にない。だが、交換条件が一つある」
「何」
「部活が終わった後の、お前たちの自主練に俺たちも参加させてほしい」

 どうしてそれを知っているのだ、と驚く。中学校のテニスコートは部活が終わると同時に閉鎖される。出入り口は施錠されるから、無断で立ち入ることは出来ない。
 それでも、一分でも一秒でも長く練習をしたい千尋たちは、中学の隣にある高校のサブコートを借りる交渉をして、夕食までの一時間半、自主練をしていた。

「自主練っつーか、ダイとシュウがサーブ打って俺がひたすらレシーブするだけだぞ」

 苦手をなくす基礎練習は部活の時間中に出来る。得意なことを伸ばす為に自主練の時間を使っていた。それを端的に告げると柳はいっそう嬉しそうな顔をする。
 一見すると鉄面皮に見える柳から、感情の機微を感じ取れる時点で、千尋は彼と親しんでいたのだということを理解した。

「千代と徳久のサーブを受けられるのは俺たちにとってはいい練習になる」
「何、俺、おまけ?」
「この十五日間、俺はお前の練習を見ていたが、常磐津、お前はダブルスに向いている。空間把握能力に長けているのだろうな。特に千代とのペアでお前は真価を発揮する。突然、思ってもみない場所へ返球する、その駆け引きの技術においては俺たちの学年でお前に勝るものは精市ぐらいだろう」
「……いや、あんま褒められてる気がしねーんだけど」

 褒められている気はしない。それでも、多分、柳にとってこの表現が賞賛のつもりなのだということは何となくわかる。データを集める、と言っていた柳らしい表現だ、と千尋はぼんやり思った。両手放しで褒めることはしない。自らを卑下してまで持ち上げたりもしない。ただ、淡々と事実を紡ぐ。その潔さが何となく好ましいと思った。千代や徳久が持っている貪欲さとはまた違うが、それでも、柳が真実、千尋たち特待生の努力を認めているのだと知る。千代は幸村、徳久は真田が説得している、と先ほど柳は言った。千尋たちの性格を考えたベストな配役だ、と千尋は思う。
 だから。

常磐津、精市を越えていくのなら、まずはお互いの得手不得手を理解しなければならない。お前にとっても、悪い話ではないだろう?」

 そこまで言わせた相手を拒絶するだけの理由は千尋の中にはない。千代たちも納得しているのなら、一人で意地を張ることもない。つるむつもりはない、と千尋は柳に言ったが、事実上、特待生同士でつるんでいるのも同然だ。その輪が広がるか広がらないかの問題なら、これ以上はもう流れに乗った方が得策だろう。
 眠い瞼をこする。その視界に映っている柳を信じてもいいのかどうかはまだわからない。ただ、信じてみたいと思った。

「柳、取り敢えず俺、飯取りに行ってくるわ」

 特待生は購買で学生証を提示すると好きな昼食と交換出来る。一日三食、全ての食事を学校が提供する、という約束はこのような形で守られていた。
 だから、千尋は毎日、購買で好きなものを食べることが許されている。
 飯を買う、ではなく取りに行くという表現が自然と出てくるぐらいには、千尋も立海の特待生として慣れ始めていた。
 その、小さな優越感を柳は切って捨てる。

「その必要はない」
「っていうと?」

 食堂にでも行くのか、と問おうとした。食堂でも学生証を提示すれば同じように好きな食事を得られる。千尋は別に昼食に対するこだわりはない。だから、場所がどこでも構わないが、食堂の座席は限られている。千尋が把握しているだけでも六人。多分、もう何人かはいるはずだから十人弱。それだけの座席が確保されているのか。
 その思考を遮って、聞き慣れた声が廊下側から飛んできた。

キワ、お前やきそばパンだらー?」
「蓮二、飲み物はコーヒー牛乳で間違っていないな?」

 声のする方を見る。真田に説得されていたはずの徳久が満面の笑みで購買の袋を抱えていた。徳久と昼食を取ったことはない。まして真田とは昼食どころか会話をしたこともないに等しい。
 その二人が、千尋の好物を持って廊下にいる。
 どうして、と問うのは野暮だ。目の前の相手の特技を思い出す。柳はデータ収集と分析が得意だ。趣味の域に達しているかもしれない。
 その、柳と十五日間クラスメイトとして過ごした。十五日間が長いのか短いのかは判断出来ない。それでも。柳は確かに千尋のことを観察していた。
 だからこそ、この結果が今、千尋の眼前に示されている。
 柳の信念に揺るぎがないことを知った。知って、それでもなお無関心を貫くのは不合理を通り越して無意味だ。柳の手のひらの上で踊っている。彼は一体何手先まで見えているのだろう。その答えを知りたいのなら、千尋は孤高を気取っている場合ではない。慣れ合うのではない。互いを理解し、その上で完膚なきまでに叩きのめす。
 そういう、戦いもあるのだと漠然と知って、千尋の世界がほんの少し奥行きを増した。

「シュウ、餌付けされてんじゃねーよ」

 苦笑いで席を立つ。そしてそのまま、廊下へ向かって歩き出した千尋の背に柳の満足そうな声が飛んできた。

常磐津、お前も十分餌付けされているぞ」
「言ってろ」

 俺はお前の執念に負けただけだ。
 今まで柳には見せたこともなかった悪戯げな笑みで振り返る。その結果は柳にも予想出来ていなかったのだろう。彼の双眸が軽く見開かれた。
 千尋の方も柳のその表情を見るのは初めてで、小さな充足が胸の内で生まれる。
 一歩ずつ歩み寄ったお互いの距離感はまだ遠いが、それを更に埋めたいのなら何を口にすればいいのかぐらいはわかる。

「俺も蓮二って呼んでいいか」
「では俺もお前をキワと呼ぶが、いいな」
「好きにしろよ。どの道、部長も副部長も『キワ』だ。俺はもう慣れた」
「なら、キワ。約束は守ってもらおう」
「蓮二、お前も忘れんなよ。交換条件なんだろ?」
「ああ、そうだな。昼休みは有限だ。お互い時間は有効に使いたいからな」

 言って千尋と柳は廊下で待っている徳久たちと合流した。
 屋上庭園にあるガーデンテーブルで他の顔ぶれは待っている、と聞かされて、千尋はまだ屋上に上ったことがないことを思い出す。
 その未知の領域が定番の場所に変わる予感を抱きながら、四人で廊下を歩く。
 慣れ合いはごめんだ。それでも、信じられる味方がいるのなら、それはきっと喜ばしいことなのだろう。レギュラーを争うのに特待生も一般生もない。誰もが等しくその座を得る権利を持っている。必要なのは実力だ。その実力を磨く為に広い世界が必要だということは何となく察していた。柳たちはその世界の入り口にいる。
 だから。
 敢えて言うなら、彼らを踏み台にして前に進もうと決意した。使えるものは何でも使う。それが千尋の特待生としての意地だ。
 そこまでが柳たちの計算だとしても、別に構わない。大事なのは結果だ。
 それに。
 神様とかいう存在がいて、テニスだけではなく勉強の才能まで与えたのが幸村精市なのだとしたら、番狂わせを起こしてみたい。神様なんかに人の生き方は決められないのだと証明したい。
 そんな思いが、湧いた。
 明日の出来ごとはまだ千尋の手の中にはない。未来を知らない千尋が未来を変えようと決意した。そんなある春の日の昼だった。